はた医院のビジョン
はた医院のビジョンは、「良質な精神医療を中心とし、従業員と受診者に幸福感を提供できる多元型組織」です。
2016年、フレデリック・ラルーというベルギー人が出した組織論「ティール組織」が、世界的な大ベストセラーになりました。今回は組織論としてその内容の一部を使って組織の型を説明しつつ、メンタル医療を提供する「はた医院」という小組織を、私がどう設計しようとしてどんな小組織を目指しているか、お伝えしたいと思います。
ラルーは、大手コンサルティング・ファームであるマッキンゼーで活躍した後に独立し、2年半をかけて世界中の組織を調査し、この成書を執筆しました。ラルーによると、世の中の組織は原始の時代から徐々に進化してきました。まずは、その一部を紹介します。
1.衝動型組織
衝動型組織は、トップがメンバーを、乏しい計画性で無理やり従わせます。まだ現代でも、特殊詐欺集団や一部の個人事務所などに見られます。医療機関でも珍しくありません。この組織はトップの衝動に立脚しているため脆弱で、成果も簡単には上がりません。
この組織は、直感的な「今」だけが興味の対象で、長期的視野や熟考が必要な計画/戦略を練って着実に成果を上げることは、不得手です。ただし、新たな脅威やチャンスへの対応力は優れており、リーマン・ショックのような混沌とした環境にすぐ反応できるのが、長所です。
2.順応型組織
順応型組織は、中長期計画を立てて機能させられる組織です。歴史上は、そこで農業が発展しました。農業には「今年の収穫物から種を取り、翌年に蒔く」という、計画と自己規律が必要だからです。
この順応型組織は、計画実行により、衝動型組織よりも大きな成果を上げました。例えば古代では、灌漑システム、ピラミッド等を作れました。そして組織は、大規模に成長し、安定しました。エジプトやメソポタミヤで大きな組織である国家が生まれ、文明が栄えたのです。
3.達成型組織
一方、現代のグローバル企業の多くは、達成型組織です。この組織に関する理論が、現代の標準的な経営学の一部をなしています。
達成型組織は、いわば「機械」。人材は「歯車」として、計画に従って配置されます。「機械」を設計するのがリーダーで、リーダーシップは、人間関係よりも合理性に価値を置き、トップダウンで「機械」を動かし、経営課題を解決しようとします。
しかし、現代に主流として存在するするこの達成型組織には、欠点があります。従業員のモチベーション低下(過度の成果主義、情熱や才能の喪失、過重労働、ハラスメントによる)、短期的利益追求と視野狭窄(短期志向、現場無視の机上計画)、環境・社会への配慮の欠如(天然資源・環境への負荷など)、組織内協力の阻害(個人や部署の成果の過度重視による)、などです。
これらの教訓から発展的に徐々に現れてきたのが、次の多元型組織です。
4.多元型組織
多元型組織は、従業員が主役です。従業員には高い役割が求められます。意思決定は、従来組織とは異なり、ボトムアップのプロセスを重視します。つまり心理的安全性確保の下で、多様な対立する見解を集めて集合知を高め(=3人寄れば文殊の知恵)、意思決定することを目指します。このためリーダーシップの型は、従業員支援に回る「サーバント型」が望まれます。
従業員には、主役として多様な考え方を等しく尊重し、公平・同意・協力・調和することが求められます。そして自発的に動けるよう、すべての人と協調的なつながりを築く努力が求められます。協調性のスキルアップのための研鑽も求められます。ただし現実の医療従事者全員がそのようなことをできるようになる道のりは、まだまだ遠いのが現状です。だからこそ長期的視野で、組織の中でこのような人材を育てていくことが求められます。
この型の組織は、20世紀になってから、非営利組織・社会事業・地域活動として見られ始めました。
従業員が主役のこの組織は、権力・階層となじまず、松下幸之助氏の「従業員はみな家族」との言葉に象徴される、昭和日本式経営に近いものです。例えば(私がビジネススクール時代に分析したことのある)サウスウエスト航空は、「従業員が第一、顧客が第二」と掲げるなどして、多元型組織のデザインを徹底しました。そして結果的に顧客サービスを飛躍的に向上させて顧客に支持され、1971年からの30年間で売上を約1,000倍に増やして成功しました。
はた医院も、開院当初からこの考え方で組織デザインをしています。その結果か、ほぼすべての医療機関が「患者が第一」を掲げる中で、はた医院だけが「従業員が第一、受診者は第二」のような事をMVVの中に入れていても、従業員の受診者への接遇レベルは低くならず、むしろ高くなっているように見えるのは、理論通りです。
5.進化型組織=ティール組織
ここまでが、歴史的に従来実現されてきた組織型です。一方、ラルーの著書の表題「ティール組織」は、次世代型組織として「進化型組織」と呼ばれます。これは私の理解では、幸福になれる人から成る組織です。
元々、幸せになれない人々の多くは、「(他者を)支配したい」「(他者に)自分を好ましく見せたい」といった他者に関した不安や願望が多いので、他者の考えなどの外的要因で判断が左右されます。でも他者のことを自分でコントロールできるはずもなく、結局無力感にさいなまれ、いかに自分の環境がどうしようもなく不良で不幸か、しきりに愚痴ります。そして幸福感がない人たちが成功しにくいことは、多くのエビデンスが示しています(例えばLyubomirsky, 2005)。
しかし、幸せになれる人は、自分の内面を基準にして判断します。他人からの評価・成功・富・帰属意識を求めず、「自分らしい自分」であることを目指した人生を送るよう努めます。このような人々の集まりが、進化型組織です。このようにラルーは述べますが、はた医院では到底実現できそうにありません。
長期的視野で、良質な医療だけでなく、従業員と受診者に幸福感を提供できる多元型組織。それが、はた医院の開業時から目指すビジョンです。
