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批判される経験を向上の楽しみに変える

[2025.06.10]

批判されることを自分の向上に変えられるレジリエンス

 人から批判されるというのは、必ずしも気持ちのいい体験ではありません。しかしそれは相手から見ると、自分に足りないところがあるということです。これを「ジョハリの窓」は、人に見えて自分に見えてない「盲点の窓」と呼んでいます。

 自分には長所も短所もある、そして、できているところもできていないところもある、と考えることは、メンタルヘルスにとって、そして自分を向上させたい人にとっても、非常に重要です。このことを心から分かっている人は、人から批判される場面において、メンタルが崩れないし、自分を向上させるように、言われた批判を利用していきます(ピンチをチャンスに変えられる人を、「レジリエンスがある人」と言います)。逆に、そのことを表面上でしかわかっていない人は、人から批判されるとメンタルヘルスが崩れやすいし、自信を失って落ち込むという結果になります。

レジリエンスが乏しいと、うつになりやすい

 昔、私は小学校の先生を務めている知人と話をする機会がありました。そのときに知人が言いました。前日、ベテランの先輩の先生からダメ出しをされたんです、と。

 クラスの中に落ち着きのない子が一人いて、ある日、どうしても教室に入ろうとしなかったそうです。知人はなんとか頑張って、教室に入らせようと努めたけれど、なかなか言うことを聞いてくれず、困り果てていました。その時にたまたまベテラン先輩が廊下を通りかかって、うまくその子をなだめて教室の中に入れてくれ、助かったそうです。

 その日の放課後、知人はそのベテラン先輩から職員室で言われたそうです。「あの後どうだった?」と。「いや、大変助かりました」と知人が言ったら、ベテラン先輩から「無理やり教室に入れようとするからダメなんだ」と批判されたというのです。それまで知人は、その子をうまく扱おうといろいろ工夫して頑張ってきていたそうなのです。ベテラン先輩にその努力を何だか全部否定されたような気になって、知人は大変落ち込んだそうです。「やっぱり自分ってまだまだだな」と。その日の夜、知人は家に帰ってもずっとそのことを考えていたそうです。夕食もあまり食べる気がしなくなり、その後も数日間しばらく食欲がなかったそうです。今ではちょっと立ち直ったけれど、まだ少し引きずっているんだ、と知人は言っていました。

 彼には、「自分のあらゆる言動は全て適切でないといけない」という考えが心のどこかにあって、「自分にはできている所とできていない所がある」ということを、表面的にしか理解していなかったに違いありません。それで「無理やり教室に入れようとするからダメなんだ」と、ひとつの行動のまずさを指摘されただけで、自分の人格全部が否定されたように理解したのでしょう。だからこそ、ベテラン先輩の言葉が強烈だったわけです。

 全ての人間には欠点がありますが、長所もあります。勉強は苦手だけれど、野球は得意だ。シュートを投げるのは苦手だけれども、カーブは得意だ、という人もいます。だから良い所は伸ばせばいいし、もし人から批判される機会があれば、良くない所を改善すればいい。それが向上と言うことです。自分のよくない所が判明するたびに落ち込んでいては、体がもちません。自分の良くないところが見つかったということは、改善していけるチャンスでもあるので、それを利用しない手はありません。「偉大な成功者の87%が、大きな挫折を経験している」、というデータを出した研究者もおられます。

批判の言葉にも耳を傾け、自分の言動を見直すことが、向上の楽しみに繋がる

 なので私たちは謙虚になって、他人の批判に耳を傾けることが必要です。もちろん、的を射た批判も的を射ない批判もあります。それが的を射ているかどうかは、批判を聞いてからでないとわかりません。批判を受けたら、自分がどうするかを判断します。相手の批判を受け止めて自分を修正するのが良いのか、それとも相手の批判に関係なく、これまでの自分のやり方をより強く固めれば良いのか、それを改めて自分の責任で判断することが必要になってきます。そのようなレジリエンスのある考え方が自分の向上につながります。 

 なので相手の批判をまずは聞くことが必要です。相手の意見をじっくり聞くだけの謙虚さが必要です。いつも「自分にはできている所もできていない所もある」と考えていれば、人から批判されたところで落ち込むことはありません。もともと自分はできていないところがあると考えているからです。批判されたからといって、自分の人格全てが否定されているわけではありません。自分の至らないところを直せばいい。それで自分が向上できます。そうすれば、批判されることがやがて楽しみに変わっていきます。

(心療内科/精神科医 畑 讓)

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